2019年6月
 テックフリー教育と手仕事
 <テクノロジー依存症とは>
テクノロジー(科学技術を生かして人間生活に役立たせるもの)の中でも、PCやスマホなどの情報技術を用いたテクノロジーを「IT」といい、その機器が常に手放せない状態だけでなく、インターネットを介して特定の活動(ゲーム、賭博、SNSなど)に固執する傾向を「テクノロジー依存症」といいます。

世界保健機構(WHO)は「5歳未満の子どもの身体、座位行動、および睡眠についてのガイドライン」で、1歳以下の子供が座っている時間に、テレビやビデオ、コンピューターゲームなどのスクリーンを見ることは推奨できないとし、2歳以上5歳未満については、それを1時間以内にすべきだとしました。さらに、ITを開発したシリコンバレーのトップ企業の従業員の多くは、早くからデジタル依存症の危機を知っていて、子どもをデジタルから遠ざけ(テックフリー)コンピュータを使わずに学習を行う学校に通わせているといいます。子どもとデジタルテクノロジーを引き離すことは、親自身の健康的な生活に繋がると考えている人も多く、自身のメンタルヘルスのケアにつなげているといいます。

テクノロジーの環境は、人類史上最も中毒性が高いことが分かっていて、テクノロジーに依存する生活が続くと、やがて精神的、肉体的な支障が出て来ると言います。ネガティブな感情(躁鬱、不誠実感、罪悪感、孤独感など)が強まり、不眠症や片頭痛など肉体的問題のみならず、生活習慣の乱れ、集中力の低下、対人関係の悪化など、「テクノロジー依存症によって年間540億ドル相当の生産力が失われている」とアメリカで報道されているなど、世界的には事態の深刻さに気付いて調査が進められ、対策が進められています。

しかし、そんな世界の動きと逆行するように、1歳にもならない幼児にまで、スマホやタブレットで動画を見せている親も少なくない近年の日本では、学校でのタブレット学習がいかにも最先端だと思い込み、幼稚園から使わせているところもあるといい、テクノロジー依存症に陥りやすい環境が、ますます広がっています。世界的にはテクノロジー依存症に危機感を持ち、手作業を豊富に用いる環境や野外活動を推奨しているというのに。世界的に求められている実践的に知恵を身に付けていく教育は、皮肉にも戦前のころまで日本にあったものでした。
 
    ホムンクルス人形
右上の『ホムンクルス人形』は、脳神経外科医のワンダーペンフィールドが描いた図を立体化したイラスト。脳の中で動作を指令する『運動野』と感覚を感じ取る『感覚野』が身体とどのようにつながっているかを示しています。5指と手のひらが占めている割合の大きさは、大脳の約3分の1。指と手をコントロールすることは、脳の大部分使うということ。手と口が大きく、ユーモラスな形状のホムンクルス人形のように、脳にとっては手と口は重要になる。人類の進化から考えても、手を使い、物を作るようになって「、知能が発達していったことからも理解できます。

そして、本来日本人は手先が器用だった。「ものづくり日本」と言われ、日本人のでなければできないことが多い。そのことを柳宗悦は戦時中に『
手仕事の日本』という著書の中で日本を「手の国」と呼び、「手仕事こそは日本を守っている大きな力の1つ」と指摘していて、さらには近代化や資本主義が極度に進む罠を指摘しています。柳の指摘はグローバル社会の世界を経験している私たちには、まるで予言のようにも聞こえてきます。

柳は「
手仕事の伝統は大木のようなもので、長い年月を経て、根を張ったものでありますから、不幸にも嵐にあって倒れてしまうと再び旧のように樹直るのは容易なことではありません。起こし得たと思っても前ほどの勢いはなく、ついには枯れてしまう惧れがありましょう」「人間の真価はその日常の暮らしの中に最も正直に示される」と言います。

当薬局では、テックフリー教育について、子どものアトリエをはじめた頃から何度もお話をし、「手仕事」(DIY)や「ひこばえ」などで実践してきました。地道な活動ですが家庭で実現できにくくなった昨今だからこそ、これからも続けて行きたいと思っています。